■学習によってめざす状態
もう一度確認のために、このブログでめざすところを書いておきます。
このブログでは、
「楽に」「反射的に」「疲れずに」「ストレスなく」
英語を聴いたり、話したり、読んだりできることを目標にしています。
TOEICや英検の得点アップは目指していません。
また、ボキャブラリーを増やすことなどはとりあえず後回しに考えています。
イメージとしては、小学校入学の年齢程度、英語で英語を学習できるようになった段階の英語力です。
端から聴いていて、ボキャブラリー、表現力などは乏しくつたない印象を受けるけれども、本人は楽に英語を使っているような状態です。
■どんな教材を選べばよいか
あんまり難しくないもの、基準としては知らない単語がほとんどないものがいいと思います。
以前にも書いたように、
「語順と機能語の処理の自動化・無意識化」
をめざすわけですが、内容面でいろいろ調べたりすることがあると、語順や機能語の処理に学習を集中することができないからです。
他には、英文の下に訳が書いてあるようなものは避けること、です。
左ページが英文、右ページが日本語訳といったふうに分かれているものとか、英文が書いてあるページの裏に日本語訳が書いてあるものがいいです。
「日本語訳なんか要らん」という人なら英文だけのものでもかまいません。
音声については、日本語訳が入っていない英文だけのものにしましょう。
洋楽を使うのもいいと思います。(後で書きます)
■どのように学習するか
以前に書きましたが、学習のやり方として充たすべき2つのポイントを再度書いておきます。
①簡単なことからはじめて、それが楽にできるようになったら少しだけ難しくする、それが楽にできるようになったらまた少しだけ難しいことに挑戦する、を繰り返す。
②英語を脳内で反復する時間をできるだけ多くつくる。
■①簡単なことから徐々に難しいことへ
まずは一つのことだけを練習して、次に別のことを練習する。両方とも楽にできるようになったら同時に2つの作業をやってみる、というふうにだんだんと複雑なことをできるようにしていきます。
まずは、英文の大きい語順だけを見ていくのがいいでしょう。大きい語順については詳しくは過去記事を参照してください。
英文の中の大きい語順をなぞることによって、英語の思考順序を脳に刻み付けていきます。
大きい語順に慣れてきたら、あるいは、大きい語順だけを練習するのに飽きてきたら、小さい語順も同じようになぞってみましょう。小さい語順についても詳しくは過去記事を参照してください。
4つの語順について身について来たと思ったら、機能語についても意識しましょう。
機能語を身につけるときのポイントは、内容語とセットにしてそのはたらきを感じることです。これについても過去記事を参照してください。
冠詞や名詞の単数・複数、助動詞のはたらき(完了、進行、能動・受動)、テンスなども少しずつ意識していくようにしましょう。
くれぐれもあせりは禁物です。いろんなことをやり過ぎているな、と感じたら、単純な作業に戻ってください。
語順が身についたかどうかはどのように判断すればよいか
ひとつの目安は、
返り読みせずに楽に意味がとれるかどうか
です。
以下の2つの例文を読んでみて下さい。
(イ)Shinjuku is the most convenient station.
(ロ)What I want is not money.
どちらが読みやすかったでしょうか。
どちらも単語は6語でできているbe動詞が使われているいわゆる第2文型の文です。
おそらく多くの人は(イ)の方が読み易かったのではないでしょうか。
どちらも読み易さはあまり変わらないという人は、英語の語順が身についている人です。
なぜそう言えるかといいますと、(イ)は日本語とほぼ同じ語順で、(ロ)の方は日本語と違う英語の語順が含まれているからです、
(イ)の方は新宿 → もっとも → 便利な → 駅 というように、出てくるイメージの順番が日本語と同じです。
そのため、わたしたち日本語ネイティブが持っている日本語の「型」をそのまま使って読むことができるのです。
それに対して、(ロ)は、What I want が日本語にはない後置修飾になっていますし not money が否定する語が否定される語の前に来ているという、これも日本語とは逆になっています。
そのため、日本語の「型」を使って読むと素直に意味が頭に入って来ないのです。
■前から順番に英語の語順そのままに読めばいい??
英語の語順が重要だ、という主張はいままでもなされてきていますし、みなさんも聞いたことがあると思います。
しかし、「前から順番に」であるとか「主語の次に動詞」であるとか、漠然としていたり、断片的であったりします。
シンプルに前から順番に読むだけでは、(ごく一部の語学の天才を除いては)英語の語順を身につけることはできません。
過去記事でも書いたように、英語の語順は大きな語順と小さな語順の「階層」になっていて、ただ読むだけでは、クッキリとその構造を感じ取ることができません。
なので、大きい語順と3つの小さい語順を別々に反復練習して、それぞれを身につけた後に全部を同時にこなせるように練習するのがよいと考えます。
■教材に洋楽を使うことについて
洋楽が好きな人であれば、非常によい教材になりうると思います。
西洋音楽のリズムには、西洋の言語のリズムが反映されています。
強弱のリズムは英語にもあり、洋楽を聞くことでこのリズムを身につけやすくなるでしょう。
対して、日本の伝統音楽の雅楽や能・狂言の謡などは日本語のリズムを反映しているはずです。
(詳しくは知らないので断言はできませんが)
それと、後の②脳内反復のところでも述べますが、洋楽の好きな人であれば、脳内反復が容易になるというのが大きな利点です。
ただ、詩的な表現や省略・倒置が多いなど、通常の英語とは異なる部分もあり、曲の選択には注意が必要になるでしょう。
Carpentersなどは比較的よいように思います。
■②英語を脳内で反復する時間をできるだけ多くつくる
過去記事で書いたように、ネイティブのこどもは母語に直接触れていない時間も今まで聞いた単語やフレーズを脳内で膨大な回数繰り返すことで、驚くべき早さで母語を身につけていくのだと考えられます。
わたしたち日本語ネイティブの大人は、英語を学習している時間以外はほとんど脳内は日本語で独り言を言っています。
人によっては、英語を学習している時間でさえも、まさに英語を直接読んだり聴いたりしている時間以外は頭の中は日本語だったりします。
このように、英語が頭の中を通過する時間が非常に限られた状況では、ネイティブのように英語で考えるところまでいくことは困難でしょうし、楽に英語を聴いたり話したりする状態にもならないでしょう。
■脳内で勝手に反芻する状態を作り出す工夫
(1)例文集を常に持ち歩く
学校や会社に行くときに例文集やそこから抜き出した英文をいくつか書いたメモを持ち歩き、トイレに行く前や電車に乗る前にひとつ覚えて、トイレにいる間や電車に乗っている間に、語順や機能語を頭の中でなぞる。声に出せるのなら声に出しながら反復する。
(2)家の中のいたるところに英文を貼っておく
トイレ、お風呂の脱衣場、ベッドの横などに英文を貼っておき、目についたときに英文を一つ覚えてしばらく頭の中で反芻する。
(3)ある程度まとまった英文を暗記しておく
頭の中にある程度まとまった数の英文を覚えておき、ちょっとした時間ができるたびにそれを思い出して語順や機能語を頭の中でなぞる。例文集を忘れたりしたときでも実践できる利点があります。
ただ、英文を暗記することが自己目的化しないように注意する必要があります。
■英文暗唱の効果
英語学習のために英文の暗唱をすすめる人もいます。
キング牧師の演説とか、ケネディ大統領の就任演説とか名文と呼ばれるものがよいと言われたりします。
しかし、英文を覚えると達成感はありますが、特に演説の文などはそれをそのまま使う場面に出くわすことはほとんどありませんし、あったとしてもその瞬間にサッと出てきません。
ただ憶えただけでは、「門前の小僧が憶えたお経」であり、ほとんど英語の実力になっていません。
憶えた英文の語順がどうなっているかや機能語がどんなはたらきをしているかを何度も何度も確認して、英語の持っている「型」を脳に浸み込ませていく必要があります。
英文を憶えた時点では、1合目か2合目くらいだと思ってください。
■洋楽
英文を脳内で反芻することが大事だと思っていても、脳内で日本語で独り言を言うという長年の習慣が邪魔をして、なかなか多くの時間を取れません。反芻していても数十秒、数分たてば、もとの日本語に戻ってしまいます。
そこで、洋楽が好きな人であれば、洋楽の歌詞を教材として憶えて反芻するのがよいでしょう。カラオケの練習にもなりますし、よくある「頭の中を歌がぐるぐる回る状態」になれば、それを機会に歌詞の語順や機能語の使われ方をチェックしましょう。
■文法的分析(GRAMMATICAL ANALYSIS)
このブログで書いているやり方とは違うのですが、英語の「型」(=文法)をまず最初に身につけることにより、ネイティブのように楽に英語を話せるようになるという土台の考え方は同じ学習法があります。
文法的分析をしながら英文を読むというやり方です。
いくつか書籍も出ています。
■文法的分析を用いて英語を学習する本
リンク
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まず、「科学的な外国語学習法」は、従来の学習法の問題点や著者の推奨する学習のやり方が書いてある本であり、教材ではありません。
次に、「英語の科学的学習法」は「科学的な外国語学習法」と同一の著者で、文法的分析をするための教材です。音声教材を著者からカセットテープ(!!)で購入できたのですが、著者がお亡くなりになってしまっており、今では入手できません。(以前、実費でダビングして下さる方をネットで見かけたのですが、今はわかりません。)
最後に、「ネイティブ感覚の暗記しない英語学習法」は、上記2冊の著書の影響を受けて書かれたものです。さらっとしか読んでいないのですが、この本だけで学習するのは困難なように思います。
佐伯智義先生の2冊については既に絶版となっています。
■検討
佐伯先生のお弟子さんで文法的分析による学習でネイティブのように楽に英語を話せるようになった人がたくさんおられるようです。
自分に合った方法だと思われる方は挑戦されるとよいと思います。
ただ、文法的分析をきっちりやろうと思うと、深みにはまってしまう可能性もありますし(例えば、there構文の「there」は何か、とか)、慣れるまではなかなかしんどいので、途中で挫折してしまう可能性があります。
やはり、簡単なことから徐々に難しいものへ、という法則に則って最初は楽なことからはじめるような学習法がよいのではないでしょうか。
「科学的な外国語学習法」で、佐伯先生は、文法の一つの規則(例えば、主語→動詞など)につき,200回以上,質問することにしており、さらに、学生は1回の質問について4,5回繰り返し大声で唱えるので、一つの文法規則について1000回以上繰り返すことになる、と書かれています。これくらい繰り返す必要があるということは、基準として参考になると思います。
何かの本に書いてあったのですが(不確かで申し訳ありません(*- -)(*_ _))、何かを身につけるためには200回繰り返す必要があるとのことですので、それにも合致していますね。
佐伯先生もおっしゃているように、従来の日本の英語学習は、語彙=「中身」を身につけることに偏っており、文法=「型、枠」については知識として得ることにとどまっており、これを無意識に使えるまで徹底的に反復するという視点に欠けていたと思います。
また、佐伯先生の著書は、まだカセットテープの時代なので、その後にあらわれた動画投稿サイトやSkypeなどを用いた学習法などが存在しません。そのため、これらを用いた学習法について触れられていませんが、当然否定するものではなく、どんどん取り入れていけばいいと思います。