■ネイティブの子どもが英語を身につける順序
この点については、言語学者が子どもの言語を身につける過程を観察して多くの記録がとられています。
そして、概ね
名詞→動詞
目に見えるもの→見えないもの
使用頻度の多いもの→少ないもの
具体的なもの→抽象的なもの
内容語→機能語
といった順序で身につけていくようです。
そして、1語から2語の表現へとだんだんと表現の範囲を拡げていきます。
Birdy fly.(鳥さん飛ぶ)
Doggy run.(わんわん走る)
などと言うようになっていくようです。
少しずつ表現の範囲を広げていくなかで、語順も身につけていくのです。
この場合、当然子どもには品詞という概念はありませんから、イメージやその他の感覚を用いて語順を身につけていきます。
このようにネイティブのこどもはできることを少しずつ拡げていっています。
これに対して、わたしたち日本人の英語学習はいきなり複雑なことをしようとしています。
■This is a pen.は超むずかしい
わたしたちが、中学1年で最初にならうのでよく知られているものに
This is a pen.
があります。
これは実はものすごく複雑で難しい英語です。
まず、いきなり4語も使われています。
しかも、文の形式になっています。
さらに、”This”,” is”,” a “の3語が非常に抽象的な言葉です。
また、isはbe動詞で、様々に変化します。
「これは(1本の)ペンです」と日本語訳をつけることで勝手に簡単だと思い込んでいるだけなのです。
”This is a pen.”は「内容として」複雑である、難しいというわけではありません。
内容としては、あるものを指して、それがペンであると言っているだけです。
そうではなくて、言語として処理するにあたって踏まなければならない手順が多く、また、概念として正確にすばやく処理することが難しい抽象的なものを多く含んでいるということが言いたいのです。
例えば、”is”を使うためには、三人称単数と現在時制を分かっていなくてはいけません。
不定冠詞の”a”についても非常に理解は難しくネイティブの子どもでも、かなり成長してからでないと正確に使いこなすことはできません。
また、いきなり文の形からはじめることで、「文をつくらなければならない」という観念を植え付けられています。
このように複雑かつ抽象的でわかりにくいことを、いちばん最初に習ってしまっています。
■いきなり難しいことをするのがなぜダメなのか
繰り返し書いているように、ネイティブと同じように英語を使うためには、文法(語順など)と機能語の処理を自動化、無意識化しなくてはいけません。
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しかし、難しいことを難しいまま、いきなりやろうとすると、作業が自動化、無意識化されないのです。
以下、具体例をあげて説明します。
●ジャグリング
ジャグリングをご存知でしょうか。日本でいうと、「お手玉」です。
ジャグリングを身につけようとするときに、いきなり5つに挑戦してうまくできるようになるでしょうか。
まず、3つに挑戦してから。不器用な人であれば1つや2つからではないでしょうか。
ジャグリングはとても複雑な作業なので、すべての動きを意識的にすることはできません。
つまり、無意識化が必要なのです。
そのためには、簡単なことから少しずつできる範囲を拡げていかなければなりません。
●自動車の運転
自動車の運転についても、最初に運転の仕方や交通ルール、道路標識の意味等を全部教えていきなり公道で運転させたりはしません。
まずはハンドルとアクセル・ブレーキから教え、徐々にいろんなことができるようにしていきますよね。
■意識的行為と無意識的行為、それぞれの特質
人間の意識(顕在意識)は、一つのことに集中するのは得意なのですが、同時並行的に複数のことをこなすのは非常に苦手です。
これに対して、無意識では同時並行的に複数のことを処理することができます。
ジャグリングの5つの玉のひとつひとつをいちいち確認しながらキャッチして放り投げることは不可能でしょう。
どうしても、無意識の力を借りなくてはいけません。
車の運転もいちいちハンドルやアクセル・ブレーキの操作まで意識的にやっていると、周囲の状況や道路標識などまで意識がまわらず、事故を起こしてしまいます。
■言語の処理は直列処理?
でも、言語を話したり聞いて理解したりするのは、前から順番に直列処理すればいいから、無意識を使わずに、意識的に処理すればいいんじゃないの?
と考えることはできないでしょうか。
前に、英語の語順は、
【だれが】【どうした】【なにを】【どこで】【いつ】
の順番であると書きました。
確かに、大きなイメージの語順としてはこのような順番で並んでいます。
これらの順番で言葉を直列的に並べていけばよいようにも思えます。
しかし、この大きな語順の他にも名詞や動詞を修飾するときの語順にもルールがあり、これにも注意を向けなければなりません。
つまり、いろいろな語順のルールが、「階層的」に適用されるのです。
わたしは小さい語順のルールをとりあえず3つ身につければよいと考えています。
これらの大きい語順と小さい語順のルールを同時平行的に判断しなくてはいけないので、「言語の処理は並列処理」なのです。
したがって、どうしても自動化・無意識化が必要になってくるのです。
よく、
「前から順番に意味をとっていけばよい」
と言われますが、言語の処理はそんなに単純ではないのです。
■ネイティブの子どもが英語を習得するための学習時間
以前の記事で、ネイティブの子どもはそんなに四六時中母語に触れているわけではない、という趣旨のことを書きました。
しかし、このことは、子どもがわずかな学習時間で母語を身につけているということではありません。
子どもの頭の中は最初はなにも言葉が入っていません。
そこから少しずつ言葉を覚えていくわけですが、最初のころに覚えた言葉は、おそらくものすごい回数、脳内で反復されているはずです。
つまり、まわりの大人が話す母語に触れていないときにも、子どもは脳内でおぼえた言葉を反芻することによって記憶の強化、スキルの定着を図っているのです。
これに対して、わたしたち日本語ネイティブの大人の英語学習者はどうでしょうか。
英文を音読したり、音声を聞いたりして英語に触れる時間をつくりますが、それ以外の時間は、ほぼ頭の中は日本語の独り言がとめどなく流れています。
わたしたちは、子どもと比べて、圧倒的に学習時間が足りないのです。
■ここまでのまとめ
ネイティブのこどもの言語習得過程を参考にすると、英語学習の方法として
①単純なことから複雑なことへ徐々にできることを拡げていき、処理を自動化・無意識化する。
②テキストや音声で学習している時間以外もなるべく脳内で英語を反芻する時間をつくる
が必要になります。
次回以降は、これらの要件を充たすようにまずは上で述べた「4つの語順」についての具体的な学習方法について考えていきたいと思います。